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隊長ブログ

近況

NHKの印象操作

NHKが印象操作をすることはありますか?
Eiji Takano(高野 英二), アメリカ合衆国在住(1995〜現在)
回答日時: 5月20日

私はNHKで25年間カメラマンとして仕事をしました。私が現役だった頃のNHKには、三種類のカメラマンが存在しました。1) 報道系(主にニュースを担当し、時々報道系のNHK特集とか特番を担当する)、2) 技術系(主にスタジオ番組を担当し、その中のセンスと才能が認められたカメラマンがドキュメンタリーなども担当する)、3) 撮影部系(ほとんどが文系の大卒で、ドキュメンタリー番組撮影や、スタジオ番組にインサートされる フィルム/ヴィデオ撮影を専門とする)…の三つです。

私は三番目のグループで、教育・教養・芸能関係のドキュメンタリーが主な仕事でした。
ですから、報道系の政治的なテーマの番組とはほぼ無縁であったことをお含みおき下さい。

われわれは、得意な分野と看做されるものが見つかるまで、色んな番組を担当させられます。私は入局し、研修を終えて配属されたのが“自然もの”の有数のディレクターが揃っていた名古屋局だったため、『自然のアルバム』、『みんなの科学』などを多数担当させられました。数年経ち、「そろそろ、こいつにも大きな番組をやらせてみよう」と考えられたせいでしょうが、ある長期取材を担当させられました。

それは滋賀県と三重県の山中を結ぶ縦断道路建設の計画と、それによって自然がどう変化するかを考える…『森と道』なる番組でした。担当ディレクターが日頃『自然のアルバアルバム』などを制作しているセクションの一人なのですから、当然道路が出来て便利になる、万歳!なんてものになるわけがありません。三重大学の植物、動物、昆虫、野鳥などの専門家インタビューによって、彼らの自然破壊への危惧をメインに据え、その悪い見本として富士スバル・ラインの当時の現状なども織り交ぜました。

以上でお分かりのように、この番組は経済・社会問題としてではなく、自然保護の立場から道路建設を捉えたもので、視聴者に「お、道路を作ったらカモシカの生息地を荒らすことになるのか。まずいんじゃないの?」という感想を持って貰うことが主眼でした。自然保護というピュアな発想からの番組だったとはいえ、印象操作と云われればその通りです。

教育番組は、子供たちの好奇心と勉学意欲をそそる印象操作をし、婦人番組は御婦人たちに生活の知恵を提供し、より豊かな家庭生活を送れるように印象操作をします。娯楽番組は大して面白くもない歌や芸能を、さも日本一のように謳い上げて「見て良かった」と思わせるように印象操作をします。

そもそも、ニュースであれ報道番組であれ、娯楽番組であれ、何千、何万とある選択肢の中からどれかを抽出した時、それは恣意的選択であり、そこから印象操作が始まっているわけです。NHKの使命からして、全ての国民(個人・企業・組織・団体等)に公平でなければならず、バランスを取る努力はするとしても、ある題材・素材を選択した時点で、その番組のカラー(メッセージ)は決まっていると云っていいと思います。

「みなさまのNHK」とは云っても、報道機関である以上、言論機関でもあるわけで、常に八方美人の番組を作っていい訳はありません。昨年公開された映画'The Post'『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』を見ましたが、国家機密(ヴィエトナム戦争に関して歴代大統領たちが表明した嘘・嘘・嘘)を紙面で漏洩すれば社長、編集長が刑務所行きとなる覚悟を迫られたワシントン・ポスト紙の報道機関としての使命感を描いた力作でした。これは、後に同紙がウォーターゲート事件を暴露した'All the President's Men'『大統領の陰謀』(1976)へと繋がります。NHKと経営形態は異なるとはいえ、ワシントン・ポスト紙の選択は言論機関としての見本です。
ワシントン・ポスト紙は法を犯してでも、政府の印象操作(大統領たちの嘘)を暴露し、読者に対し政府不信という印象操作を試み、成功しました。印象操作と印象操作のせめぎ合いに勝ったのです。

全ての印象操作が悪いわけではありません。

Eiji Takano(高野 英二)
ドキュメンタリー番組撮影を専門に25年間NHKに勤務。現在アメリカ南部在住。
前チーフ・カメラマン 1967-1993 明治大学で英米文学を専攻 卒業年: 1967
アメリカ在住 1995年~現在

出典元
by 2006taicho | 2018-12-08 00:50 | 近況 | Comments(0)

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