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隊長ブログ

知っておきたいこと

息子のため算数独学

午後八時、名古屋市内にある家賃五万円のアパート。
亜矢さん(20)は二歳の一人息子を寝かしつけ、小学四年生向けの計算ドリルを棚から出す。
84÷7 96÷6 筆算が分からず、シャープペンを持つ手が止まる。


手の甲にある入れ墨を見るたびに、小中学生のころの自分を思い出す。
幼いころに離婚した母親は、四人の子供を一人で育てた。
亜矢さんが小学校四年のときに六つ上の姉に脳腫瘍が見つかり、母親が介護の仕事を減らして看病した。

収入を補うために生活保護を受けたが、ストレスだったのか、仕事が終わるとパチンコに行くようになった。
帰宅は深夜。「養ってあげてるんだから手伝いなさい」。
母親はそう言って、亜矢さんに夕飯を作らせた。

勉強する時間がなくなった亜矢さんは、学校の授業の分数と少数でつまずき、漢字も読めなくなった。テストの点数はゼロばかりだった。
中学校の入学式。
母親に「買ってきた」と渡された制服は、よく見ると姉のお下がりだった。

「こんな貧しい家にいたくない」。
一年生の冬から家出を繰り返し、警察に何度も保護された。
繁華街でチラシを配って日銭を稼ぐ日々。
入れ墨はその頃、恰好いいと思って入れた。

勉強なんてくだらない。高校なんて意味がない。
中学の卒業式には出席したが、進学せずに、アルバイトで働いていたスナックや工場をすぐに辞め、クラブで知り合った男と一緒に暮らし始めた。
でも、ひどい暴力受けるようになり、八か月で別れた。

妊娠がわかったのはその二ヶ月後、亜矢さんが17歳のとき。
おなかの中で動く子供がいとおしく、母親の反対を押し切って「育てる」と出産した。
ミルク代やおむつ代のためになるべく給料が高い働き口を捜したが、入れ墨が邪魔をして不採用が続いた。
消そうとしてカッターナイフでえぐると、血が止まらなくなった。
「仕事は選べない」。
出産の三ヶ月後、託児所付きのキャバクラで働き始めた。

とにかくお金。
その思いで頭がいっぱいだったが、一歳になって立てるようになった長男が、「ママ、ママ」としゃべり始めたときに、気がついた。
お金はもちろん必要だが、親として、子供に色んな事を教えてあげなければいけないのではないか。
最低限の知識がなければ日常生活にも困る。
スーパーでは「5%引き」と「一割引」のどちらが安いのか分からない。
児童扶養手当の申請で区役所に出した書類も「同居」「配偶者」などの意味が分からず、窓口の職員に聞いた。

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百円ショップで買ってきたドリル。
難しくても諦めないのは、自分のためだけではない。
「教えて」って言われたら、教えてあげたい。
分かったら「良かったね」って一緒に喜びたい。
そんな母親になりたいから、亜矢さんは今夜もドリルを開く。 







<6/24東京新聞 新貧乏物語 子供たちのSOS、より>










by 2006taicho | 2016-06-25 23:45 | 知っておきたいこと | Comments(0)

おかしいことはおかしいと言う


by rei7955