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哲夫の恋 6

三者集会はあっという間に終わった。
発言したのは哲夫と保護者だけだった。
その保護者は哲夫の意見におおいに賛成だと言ってくれた。

体育館から教室に戻る途中、声をかけられた。
「宮本さん 良かったです素晴らしかったです」
そう声をかけた女子生徒はあっというまに行ってしまった。
哲夫は曖昧な表情をしてそれを見送った。
「誰?今の」
隣にいた梅田に聞くと
「2年の小日向洋子だよ」
「へえ~知らないなあ」
「普通科だよ」
「そうか・・・」
「お前には無理」
「うるさい っていうかなんでお前知ってんの?」

そう言いながら哲夫はふと静江のことを考えた。
静江と話をしたいと思った。
2年、3年と同じクラスにいながら二人だけで話したことがなかった。
気持ちを直接伝えたこともなかった。
ただ、同じクラスの松本和子や寺島敬子が気を利かしてくれて伝えてくれていたようだった。
同じクラスにいて、授業中に静江の長い髪の色の白い横顔を見るだけでドキドキした。
それだけで幸せな気持ちになった。






教室に戻って雑談していると担任の重田が入ってきた。
「え~とみんな席について聞いてくれ 2組の永田の停学のことだけどな、二週間の停学だったけど一週間に変更になった
まあ土日があるから実質5日間だな まあそういうことになったから みんなにも報告しておく いいな タバコを吸ったんだから処分は仕方ない それから今度、農林科問題について委員会を設けることになった。まあ今日の集会を無駄にしないためにだな学校と生徒とでいろいろ検討することになったわけだ。まあこれについてはまたいろいろと決まったらみんなに報告する
それと、明日からは今まで通り通常通りの授業だからな 時間割り通りだからな 間違えるな はい じゃあ今日はこれで帰ってよし」


「哲夫 お前今日どうする?」天然パーマの坂下勝が声をかけて来た。
「どうしようか なんだか腹減ったなあ」
「だろう?じゃあ団子でも食いに行くか」
「そうだな 梅田お前も行くだろう?」
「おう行くよ!」
「ちぇっ!男3人で団子かよ」坂下が大声で叫んだのでみんな大笑いをした。


「おばちゃん俺フルーツあんみつ」
梅田と坂下で団子やに着くと店の一番奥でカップルがいた。
どうやら普通科の生徒らしかった。
するとその男子生徒が立ち上がって哲夫たちのところにやって来て
「哲夫 お前も来年大学行くんだろう あんなことしゃべると学校の印象悪くなるよ あんなこと言わなきゃよかったのに 推薦ももらえなくなるぞ」
「そうかい」
「そうだよ 大体俺たちの代で変わるわけないんだからさあ 学校批判みたいなことやると 損だよ」
「損? そうかわかった」
男子生徒は哲夫の返事を聞く間もなく自分の席に戻って行った。
女子生徒となにやらひそひそやっている。
坂下が気色ばむ。
「やるか?おい哲!」
しかし梅田は冷静だった。
「やめろ今日の今日だぞ 三者集会が終わったばっかりだぞ」
「そうだけどお前・・」
「梅田の言う通りだな・・・今日の今日はちょっとやばいだろう・・・」
坂下の顔をみながら哲夫は言った。
「ああいうやつは俺たちの同級生じゃないな」
向こうのテーブルを睨みながら哲夫は怒りを収めた。
哲夫たちの異様な雰囲気を察してか、男子生徒は彼女と二人ですぐに帰ってしまった。
「また来いよ」と坂下が横目でじろりと睨む。


三人ともせいせいした気分になった。
「ところで梅田 お前その後どうなんだよ」
「なにが?」
「なにがってその後だよ あれ ほら日記」
「ああ うん 順調だよ 順調そのもの」
「ほんとかよ いいなあ お前もうやったのか?」
「えーーばか なに言ってんの そんなこと ばかじゃないか」
「そうかあ よかった」
「なにがよかったんだよ」
「だってお前に先を越されたら俺死ぬほど悔しい」
「ばーーか お前はどうなんだよ」
「俺はダメ 全然 話もしていない 去年の修学旅行以来」
「じゃあもう一年くらい経つんじゃん、なにしてんのお前 そのうち誰かに持っていかれるぞ そんなことじゃ」
「えっ!ホント?そういうことある?」
「あるよ そりゃあ 向こうだって待ってるんだからさあ なんか声かけたりしないとお前」
「そうかあ そうなんだよなあ だけどちょっとこうタイミングがさあ なんかこううまくいかないんだよなあ いつも誰かと話ししてるからさあ・・・・・」
「じゅあ俺がなんとかしてやろうか?」
「ええ!いやそれはちょっと・・・それなら松本たちに頼んだ方が早いだろう?」
「まあそれはそうだ」
坂下が話に割り込む。
「俺 夏休みにバイクの免許取る」
「ええ いいなあ そうかあ お前5月生まれだからなあ 俺なんかだめだ哲夫は10月だっけ」
「うん 俺もまだ取れない」
「免許取ったら乗らせろよ」
「おう 夜な」

その後のY高校は何事もなく1学期が終了した。


哲夫の夏休みは建築現場でのアルバイトに明け暮れた。

ただ、哲夫にとっては余計な仕事が加わった。
三者集会発言したこともあり哲夫は「農林科問題審議委員長」となってしまった。
会議は夏休み中に行われた。


最後の会議は8月の末に行われた。
校長が
「え~今日のこの会議で三回目になりますが、今日で最後の会議となります。
結論を出したいと思いますので・・・・・・・」

校長室には校長をはじめ、教育委員会から数人、市の委員、学校側と十数人が出席した。
担任の重田の顔はなかった。生徒は生徒会長の白井と哲夫だけだった。
会議が始まってしばらくすると教育委員会の偉い人が哲夫に聞いた。
「宮本くん、君の意見はどうかね」
突然の指名に哲夫は驚いた。
「えっとまあ まあこのあいだの三者集会で言ったとおりですけど・・・・」
「つまり 普通科を1クラス増やすということ?」
「はい そうです」
「うん わかった」
教育委員会の偉い人はただそう言った。
白井君は?
「なかなか難しい問題だと思います、農林科の先生方の仕事の問題や土地というか農地の問題もあるでしょうし・・・・慎重に検討する必要があると思います」
生徒会長の白井はそう言った。
何人かの委員から感心したような声があがった。
「なんだよ 政治家かお前は」
哲夫は秘かにつぶやいた。
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by 2006taicho | 2014-01-07 21:50 | 小説 | Comments(0)

哲夫の恋 5

三者集会は体育館で行われた。
生徒も保護者も入り乱れて入口でスリッパに履き替えている。
壇上に向かって前から1年、2年、3年と座席順になっていた。
左手は深刻な顔をした教師たちが全員着席していた。
3年の後ろに保護者が座り、なにやら隣の人とささやきあっている。
ざわざわとしている雰囲気のなか、哲夫は母親の多恵子の姿を確認して席に着いた。
多恵子はいつもより髪を整え、少しお化粧もしてよそ行きの顔でしんなりと座っていた。
「卒業式みたいだな」と思ったが、卒業式と違うのは壇上に演壇もマイクもお花もなにも置かれていなかった。
殺風景な感じだった。

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「ええ~それでは時間になりましたのではじめさせていただきたいと思います。」
副校長の山上がマイクの前に立って話し始める。
背が低いので禿げた頭しか見えない。その頭も緊張のためかすでに光っている。

「ええ~副校長の山上で御座います。本日は保護者の皆様にはお忙しいところご出席いただきましてまことに恐縮です。この機会でございますから本校を取り巻く環境、諸問題につきまして・・・・ええ~ 生徒諸君、教職員一同、そしてまた保護者の皆様からですね・・・・・その忌憚のないご意見を頂戴いたしまして・・・・・その本校のことにつきまして・・・・まあ問題の解決といいますか・・・・いや解決策といいますかまあ・・・そのあたりのことにつきまして・・・・貴重なご意見をたまわれれば幸いと思いまして・・・・どうぞ忌憚のないご意見をお願いする次第です」

次に学年主任の亀山が立ちあがった。
「3年の学年主任の亀山です。本校の歴史は古く、戦後間もないころに創立いたしまして、このY市でも質実剛健をモットーに歩んで参りました。まあ平ったくもうしまして一部バンカラな伝統も御座いまして・・・・・時には行きすぎかなと思う面も御座います。
まあそのあたりが時には問題と言えば問題で御座いまして・・・・生徒同士、または下級生と上級生という関係におきましてなにかちょっと予防策をなんとか講じられたらと思う次第ですはい ・・・ええっとそれでは次は生徒会を代表いたしまして白井生徒会長からご報告をしてもらいたいと存じます」

「生徒会長の白井です。今回の件はまあ一部の者が日常的に行っていることに対して、先生方やまた下級生も被害にあっていたりすることが発端だと思います。下級生の中には学校に来るのが怖いとか言う生徒もいます。その辺のことは我々生徒会も大いに反省し、これからそういうことが起こらないようにですね、していきたいと話し合ったばかりです。今日は是非生徒からの意見も聞いてもらいたいと思います」


学校側と生徒会側との段取りなのだろう、一応そこまでは順調に進んだ。
しばし会場内はざわついた。
なんだか丁寧な口調だが歯にものがはさまった言い方にみんな調子が狂った様子だ。
これでは発言しにくい。もっとストレートに言えばいいのに。格式ばった言い方で聞いていてわかりにくいしなにより窮屈な感じだ。
その証拠に生徒も保護者も誰も手を上げない。
しばらくざわざわとした時間が流れた。
「まあ1、2年は言いにくいよな 親たちの誰かが言えばいいのに」隣の席で梅田がつぶやく。
「親たちだってなんだかわかんないんじゃないのか」哲夫が言う。
2組のやつらはどうなのかと見回すと、リーダー格の松島靖男jは覇気のない顔をしている。
職員室に乗り込んだときの勢いはすっかり消え失せている。
そのかわり学校側や生徒会長の白井の態度に、いらついている様子はみてとれる。


哲夫は不意に視線を感じた。
重田だった。
重田が目で合図している。




「はいっ!」
場内の空気が一瞬で変わるのが分かった。
すっくと立ち上がった哲夫に全員が注目している。
2年生の生徒会のやつが慌ててハンドマイクを持って来た。
「ああ えへん」と哲夫は咳払いをした。
持っているマイクが小刻みに震えているのが分かった。
重田が拝むような顔でこっちを見ている。
多分この場で哲夫の今の気持ちを理解してくれているのは重田だけだろう。
重田は重田で休校になった三日間、哲夫からの電話を待っていた。
「先生!俺なにをしゃべればいい?」
しかし哲夫からの相談の電話はなかった。
それだけに哲夫が心配だった。



哲夫は話しはじめた。
「ええと、俺は農林科です。1年生のころは町の人によく聞かれました。お前はどっちにはいった?普通科かそれとも農林科かと。
農林科ですというと、なんだ、のうたりん科かあ、と。最初はショックでした、でもそのうち慣れて自分からそういうふうにいうようになりました。2年生になると農林科の授業増えてきました。教科書の半分は農林科の教科書になりました。周りの仲間もだんだんやる気がなくなってきました。一番いやだったのは実習着を着る時でした。帽子も灰色で全身鼠色でしかも足には地下足袋を履いて・・・・・結構嫌でした。
それと、畜産の授業で豚のキンタマ・・あっとごめんなさい 豚の急所を食べさせれて、これが農林科に入った儀式だといわるのも嫌でした。」
これには3年のやつらがどっと笑った。

「みんながみんなそうだとは言いませんが、将来農業をやろうと思っている生徒がどれだけいるでしょうか。
一番の原因は中学3年のときにちゃんと勉強しなかったからです。つまり内申書の成績が悪かったからです。
だから中学の担任に、お前は農林科に行けといわれるわけです。普通科は無理だと。親はがっかりします。
そして高校に入学してみるとはじめてわかるわけです。ああなんだ俺はとんでもないところにきたなあって。
でももうあとの祭りっていうんですか、まあそうなるわけです。3年間我慢して高卒の資格だけは取ろうと。
今のこの町で本当に農林科が必要なんだろうか?最近そう思います。農業を本当にやりたいなら逆に高校まではきちんと普通授業を受けて、大学に行ってから農業のことを学ぶべきじゃないかと思うんです。」

場内がシーンとなっていることに気付いた。
ええい、構わず言ってやれ、なかばやけくそで話し続けた。

「だから・・・・その普通科が1クラスしかなくて、それも男女とも25人しか枠がないというのはおかしいんじゃないかと。」


パチパチパチと拍手が起こった。
しかしその拍手は緊張している哲夫の耳にはきちんとは聞こえなかった。
なんか音がしているなあという感覚だった。


「中学3年の2学期にわずか15歳で自分の進路が農林科しか選べないというのはちょっと変じゃないかと・・・・・・。いくらそのときに勉強ができなかったからといって・・・・・・。高校3年間で自分の望まないものを学ぶというのはおかしいと思うんです。
裕福な家は隣町の私立に行く人もいますが、経済的に親の負担が増えます。
できれば普通科を一つ増やしてもらいたい、そして農林科は1クラスでいいんじゃないかと思うんですけど。
俺たちの代ではもう間に合いませんが、今の中学3年生のために是非そうしてもらいたいなと・・・・・・」

また音が聞こえる。
拍手の音だ。今度ははっきり分かる。なんだか少しずつ音が大きくなって聞こえる。
「そうだあ」 「そうだあ」 農林科の3年生がたちが口ぐちに叫んでいる。
それに賛同するように1、2年生が拍手をしている。
そして保護者達も。

校長と副校長は渋い顔をしている。
重田は?
重田は小さく頷いている
他の先生たちに気付かれないように。

哲夫はそのまま席についた。
本当はもっと話さなければいけないことがあったと思ったが、まあいいやとも思った。
昨日沖山さんと話したことは大体言えたと思った。



<つづく>
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by 2006taicho | 2013-12-27 05:10 | 小説 | Comments(0)

哲夫の恋 4

三者集会の朝、哲夫はスクールバスを待っていた。
スクールバスに乗るのは久しぶりのような気がする。
母の千賀子も三者集会に出るというので、猫のフーニャを押しのけて起きだした。
哲夫は朝食は殆ど食べない。時間がないのが一番の理由だが、「男は朝からそんなものをもぐもぐと食っちゃあいけない、粋な男はそんなことをしちゃあいけない」とテレビで渥美清が言っていたからだった。
哲夫は自分のそういう単純なところが嫌いではない。


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スクールバスに乗り込むと前列の1、2年生が「おはようございます」と口ぐちに挨拶してくる。
「おう おはよう」と言いながら哲夫は一番後ろの指定席に座る。
「哲んち おふくろが来るのか?」梅田孝之が聞いてきた。
哲夫はそれには答えず学ランのポケットからセブンスターを取り出して一服点ける。
その煙をわざと梅田の顔に吹き付ける。すると梅田は思い切りゴホゴホとせき込んだ
梅田がタバコが大嫌いなことを知っているからだ。
哲夫は苦笑いしながら「お前んとこも親が来るのか?」と咳き込む梅田に聞く。
「おれんとこは来るわけない」梅田はまだ咳き込んでいる。
「いいなあ うちは来るってよ」
「そうか ざまあみろだ」
「うるせえ」

梅田はどちらかというと周囲を常に気にするタイプで平和主義者だ。波風立てたりするのは好きじゃない。
しかし一方で、思ったことは口に出してどんどん進んでゆく哲夫のような性格を羨ましく思うことがある。
哲夫は哲夫で、自分がつい暴走しそうになったとき、的確なアドバイスをくれる梅田に秘かに感謝していた。




あるとき梅田が打ち明けたことがある。普通科のある女子が好きだという。
哲夫は「普通科の女子?まじかよ」と驚いた。
梅田はニキビ面を真っ赤にして「・・・・うん」とうなるように答えた。
梅田の好きだという女性徒は、小太りで顔は十人前。はっきり言ってブスの部類だ。
梅田には悪いが。

「いいじゃねえかよ」
「なに  お前 つきあってんの?」
「・・・・・・う~ん わかんない 付き合ってんのかなあ?」
「なんだよそれ 意味わかんないよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・交換日記やってる・・・・・・」
「げえ~~~~~~こ こ 交換日記イ~~~~~~?!!!!」
恥ずかしさで梅田の顔は、いや全身は沸騰していた。
その恥ずかしさは哲夫にも感染した。




スクールバスの運転手がミラー越しに哲夫たちの様子を窺っている。タバコを吸っている哲夫たちを見つけて苦々しく思っているようだ。 
「学校にチクリたきゃ、チクレ」
哲夫は運転手を睨んだ。
運転手はあわてて目をそらした。

スクールバスは何度か停留所で止まり、生徒たちを乗せては走り出し、ほどなく高校に到着した。



<つづく>
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by 2006taicho | 2013-12-27 02:12 | 小説 | Comments(0)

哲夫の恋 3

担任の重田は「家で自習だからな」と言ったけど普段家でやっていないことをやれるわけはない。
それよりクラスのみんなに押しつけられた役目のほうで頭が一杯だった。
休校になって三日目、明日は登校日で三者集会だ。クラスを代表して意見を言えったってなにを言えばいいんだ。哲夫は一人悶々としていた。
「哲夫~電話だよ~沖山さんっていう人」
日曜日の朝、電話が来た。沖山さんからだ。そうだ、沖山さんに聞いてみよう。
「哲夫、お前トイレの紙がなくっってたらちゃんと補充しておいってって言ってるでしょ!まったくなんの役にもたたないんだから」
母の千賀子が小言を言う。
「わかったよ、やっておくよ」

電話に出ると「もしもし 哲夫か?沖山だけどさあ なに高校休みになったんだって?」
「はい実はそうなんですよ あっそれで沖山さん今日時間ありませんか?実はそのことで・・・・」
哲夫が言い淀んでいると沖山は
「おう 実は俺もそのことでちょっと聞きたいことがあってさそれで電話したんだよ」

渡りに船とはこのことだ。沖山さんは哲夫の1年先輩だった。去年の学園祭のときに同じ実行委員になっていて沖山さんは実行委員長だった。
準備の段取りなど、要領のえない哲夫たちの面倒をみてくれていろいろと細かく指示を出してくれた。四角い将棋の駒のような顔立ちに細くやさしい目で接してくれた。
他の上級生のように威張るところがなく、哲夫はちょっとあこがれの念を抱いていた。

「ちょっと出かけてくる」「哲夫 お母さんも明日は高校の集会行くからね」
母の千賀子は繕いものをしながらそう言った。



沖山さんが指定してくれた喫茶店は自転車で10分ほどのところにあった。Y駅の反対側にある不動産屋の隣だった。
店内には映画音楽が流れていた。お客はカウンターに常連風の男が一人、スポーツ新聞を読みふけっていた。
「お前 なに飲む?俺はブレンド」
「あっ俺はコーヒーで」
「わかりましたブレンド二つですね」ウイトレスはそう言って戻って行った。
そうかブレンドって言えばいいんだ、哲夫は秘かに、今度静江とデートするときは使おうと思った。
「それでどうなんだよ実際 地方版にも出てたぞY高校暴力事件で休校って」
「あっはい暴力事件じゃなんですけどほんとうは、タバコがみつかっちゃってそれで停学に・・・」
哲夫は事件の顛末をなるべく正確に話した。沖山さんの言うとおり今回の事件は新聞の地方版にも小さく掲載されていた。特にこれといった事件のない
地方の新聞記者にとっては有難いものだったのだろう。
「生徒会は?どうしてる?」
そうか、そういえば生徒会というものがあった。哲夫は自分の思考の狭さを思った。
「生徒会ですか?生徒会のほうは全然眼中にありませんでした」正直に答えた。
「まあ生徒会は今は誰だっけ?」
「白井です」
「あっそうかあいつかあ 彼はずっと生徒会の委員だったよな」
「はい1年のときからなんかの委員やってます」
「生徒会のほうからはなんの連絡もないのか?」
「ないです」「そうかあ それもおかしいいなあ」
「・・・・・」
「だって明日は三者集会があるんだろう?」
「はい」
「だったら明日のことで段取りとか打ち合わせておくことがあると思うけどなあ」
「・・はい」
「やっぱりメンバーがみんな普通科だからなあ」
ちなみにこの沖山さんも普通科卒業である。だからこうして哲夫たちのことを心配して相談に乗ってくれるなんて普通はあり得ないことだった。それだけでもこの人は違うと哲夫は思った。

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「俺はさあ 確かに俺は普通科だったけどさあ ちょっと気になっていたんだよ ていうかさあ 俺の中学のときの同級生もさあ 農林科に行ったやつもいれば普通科に入ったやつもいる ところがさ農林科に行ったやつとは高校に入ってからは妙に疎遠になっちゃうんだよ なんか 避けられちゃうというか そういう得変な距離みたいなものができる 中学時代あんだけ一緒に遊んだやつラがだよ それって多分普通科と・・・・・」
沖山さんはときどきコーヒーをすすりながら熱弁をふるった。

沖山さんの話し方が好きだった。
ひとつひとつ言葉を選びながら、それでいてテンポもあり、言い訳がましくなく、相手を思いやって話していることが伝わってくる。
自分みたいに乱暴で押しつけがましくて、相手を傷つけるような話し方ではダメだ。
こういうふうに話せるようになりたい。
温かい話し方・・・・・・




「まあとにかく 明日しゃべる機会があるならお前が思っていることを素直にしゃべればいいと思うよ。
お前はまっすぐだから、それがお前のいいところだから、それをそのまま学校にぶつければいいんだよ」

哲夫はありがたいと思いながら話を聞いていた。
こんな兄貴がいたらいいなあと思った。



<つづく>
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by 2006taicho | 2013-12-26 10:59 | 小説 | Comments(0)

哲夫の恋 2

騒動の翌日、スクールバスに乗り遅れた哲夫が学校に行くと、ホールルームが行われていた。哲夫は今日も遅刻である。
原因は深夜放送の聞きすぎと、猫のフーニャが哲夫の布団の上でなかなかどかないからだった。
みんなに言うと猫がどかないから遅刻なんて信じられない、馬鹿じゃないのと言われた。
しかしそれは本当だった。
朝目覚めると必ずフーニャが上に乗っかっている、それをむげにどかすことができない。それをいいことにもうひと眠りするともう時間がない、それでフーニャに声をかけながらベッドから起きると、もうスクールバスに間に合わない。
健康診断のとき、「朝起きれないので多分低血圧だと思うんですけど」と告げると、血圧を測っていた医師は「血圧は高いくらいですよ、起きれないのは意志の問題です」と言われてみんなに大笑いされたことがあった。


副級長の岡本節子が顔を赤らめてみんなの意見をまとめていた。
哲夫が教室に入ると、岡本節子は「やっと来た」という顔をしてほっとしたような、しょうがないやつという顔を哲夫に向けた。
担任の重田もちらっと哲夫の方を向いたが、いつもとは違う様子で無言で窓の外に顔を向けた。
哲夫は自分の席になにも入っていない鞄を置くと、その足で節子と入れ替わりに黒板の前に立った。
「えーーまあそういう訳で・・・・」
いつもなら級長の哲夫がそういうと「なにがそういう訳だよ、今頃来やがって」と突っ込みが入って笑いが起こるのだが、どうも今朝はみんなの様子が違うことに気がつく。
そういえば担任の重田の表情もなにかいつもより重い。

哲夫は念のため黒板を振り向いた。「休校について (三日間)」と書かれている。そしてそのタイトルの横には三日間の過ごし方とある。
みんなは哲夫を凝視している。哲夫がどんな反応を示すか注視している。反応を楽しみにしているようなフシも見て取れる。
数秒経ってから哲夫が「休校・・・なの?」と言うとようやくみんながどっと笑った。
「そうだよばかやろう」と親友の梅田孝之がやり返す。またみんなが笑う。
「そういう訳だから」と哲夫の常套句をそのまま誰かが言い放ってまだクラス中が笑った。
さすがの哲夫も恥ずかしくなり、しばし天井の蛍光灯を見上げた。

気持ちを取り戻して「いつから?」と哲夫が言うと「今日から」とみんなが叫ぶ。哲夫は少しずつことの次第がわかって来た。
「大変じゃん」心の中で思いながら話を続ける。休校の原因は昨日の騒動のせいだろう、しかし何故休校なんだ、それも三日間も。
ここはまず男子じゃなく女子に聞いたほうがよさそうだ。哲夫の頭もようやく目を覚まして来たようだ。そういえば今日はまだ目覚めの一服もしていなかったことに気付く。
小林みねこに聞いてみる。彼女はクラスの中でも妙に大人っぽいところがある。そのせいか女子の中ではちょっと浮いていて友達も少ない。
でもこういうときはあまりしがらみのない小林に限る。
「あたしは昨日のことはあまり詳しくないから、よくわかんない」小林みねこは迷惑そうな表情を隠そうともせず、女子としてはもっともな意見だ。
「そうだよ 男子のやったことなんだから」女子たちのささやくようなそれでいてはっきりと聞こえる声があちこちで起こる。

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「まあやったのは2組のやつらだからなあ」 「でもあいつらのせいだけにするのもなあ」
「普通科のやつらは迷惑だと思ってるだろうな」 「うん あいつらは関係ないって思ってるよ」
「今年は暴力事件ないよな」「停学は今年初めて」 「あいつも馬鹿なところでタバコ吸ってんだからしょうがないよ」
「ほんと馬鹿だよな、あそこじゃ見つかるに決まってるよ」
「俺らの代はまだ退学は出てないよな」 「だからいつもの3年よりまだいいほうだよ」
「タバコが見つかれば停学はしょうがない」
「まあそれはそうだけどな」「停学って内申(書)に載るの?」 「しらない どうなんだろう」
「でもこんなの毎年のことだろう?」「そりゃそうだよ 農林科だもん そりゃ少しは大目にみてくれないとな」
「やってらんないからな」
「普通科のやつらはいいよなあ」 「まあ今ごろそれを言ってもな」 「うん」


しばらくみんなの意見を聞いていた。哲夫は大体意見は出たと思った。そして今回の騒動の原因も自分なりに考えていた。
すると担任の重田が立ち上がり
「昨日のことで先生たちの中には学校に来るのが怖いという先生もいる、授業をやるのが怖いという先生もいる、みんなもこの三日間でよく反省してもらいたい、三日間の休校のあとは三者集会をやることになった」
と少し面倒くさそうな顔でみんなに伝えた。
教師、生徒、父兄というわけだ。
「その三者集会でみんなの考えていることを意見として言うのもいいと思う」重田はそれを言いたかったかのようだった。
「ええ でも親も来るんだろう いやだよ俺」
「そうだよな俺もいやだ」
「哲夫 お前がなんか言え」
「そうだお前がいい」
「なんか言え」


結局、哲夫が三者集会でなにか意見を言うことになった。3年3組を代表して。
哲夫は最初は拒否したがみんなの声に押し切られた。
重田も承知したのでホームルームはそれで終了した。
帰ってゆく生徒たちに重田は
「おい 休校だからって街で遊んでんじゃないぞう ちゃんと家で自習だからなあ」



ーつづくー
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by 2006taicho | 2013-12-25 05:51 | 小説 | Comments(0)

哲夫の恋 1

「ねえ、24日うちに来る?」
「えっ!いいのか?」
「うん、期末も終わったし」
「わかった 行くよ」

午後の授業が終わり、みんなあわただしく教室を飛び出してゆく。
部活に行く者、これから町に遊びに行く者、一目散に家に帰る者、それぞれに教室を出えてゆく。
宮本哲夫はそんな仲間を目で見送りながら、ちょっとドキドキしていた。
話しかけてきた柳瀬静江はそんな哲夫の表情をちらっと見ただけで、そそくさと出て行った。
嬉しさのあまり哲夫はボーとその後ろ姿を見送っていた。

3年3組の担任の重田隆弘は黒板を拭きながら哲夫に話しかけてきた。
「哲夫、お前ちゃんと調べたか?」
重田は哲夫の大学受験の準備がどうなったか聞いてきた。
「あっ、いやまだちょっと」
哲夫の机まで来て重田は
「なんだ、まだか早くちゃんと調べておけよ 、あっという間に時間は経っちゃうんだからな」
「うん、やっておきます」
「内申書、25日ころには書いておくから職員室に取りに来いよ」
「25日ですか?」
「ああ、まあお前の内申書はちょっとおまけしておくからさ」
「そうなんですか」
「まあな、お前はまあ頑張ったからな、ちょっとだけな」
重田はそう言ってタバコのヤニの着いた歯をみせて笑った。
「でも俺遅刻が100回だから・・・・」
「だからそのへんは俺がなんとかするから」

担任の重田とそんな会話をしながら哲夫は半ば上の空だった。
静江からの突然のクリスマスイブの約束のことで心臓のドキドキが止まなかった。










哲夫の住むY市は人口が10万にも満たない地方の小都市だった。
特にこれといった産業もなく、若者の人口の減少に歯止めが利かないどこにでもある街だった。
哲夫の実家は一戸建ての、昔でいうところの文化住宅だった。
家はかなり老朽化していて、台所の床は歩くたびにギシギシと音を立て、そのうち抜けるんじゃないかと思うほどだった。
家族は母親の千賀子と姉の多恵と哲夫の3人暮らしだった。
父親は哲夫が9歳のときに病死していた。哲夫はよく遊んでもらった記憶がある。
子煩悩ないい父親だった。
母の千賀子は近くの部品工場の経理事務をして子どもたちを育て上げた。
姉の多恵は高校を卒業すると専門学校へ通い、保母の資格を取り隣町の保育園に勤めている。
哲夫とは年が五つ違うので多恵にとっては可愛いい弟だった。





哲夫たちが3年生になった今年の春はちょっとした事件があった。
きっかけは、3年2組のある生徒が学校の中で喫煙しているところを教師に見つかり、停学処分になったからだった。
その話を聞いた同じ2組の同級生たち十数人が、大挙して職員室に乗り込み大騒ぎをしたからだ。
担任の教師の襟首をつかみ、押し合いになり教師を押し倒してしまった。
挙句は隣の校長室まで侵入して、たまたまいた校長にも詰問して停学処分にするなら俺たち全員も停学にしろと息巻いた。
その様子はヤクザの出入りまがいで、校長をはじめ職員室にいた教師たちを震え上がらせてしまった。
家庭科の女の教師などは叫びとともに泣き出してしまうほどだった。

隣の教室の異変に気付いた哲夫たちは仲間とともに脱兎のごとく職員室へ走ったが、もうその時は、2組のやつらが大騒ぎを始めていて
教師と2組の生徒たちの背後から覗き込むような格好になった。

2組のやつらは哲夫の顔をみて中に入れてくれた。
担任の教師は白いワイシャツの襟首を引っ張りながら何か言おうとして立ち上がったところだった。
2組のリーダー格は松島靖男で、やや痩せてはいるが身長が185センチあり、丸坊主なので立っているだけで威圧感がある。
その松島が踵を返し、「校長!校長!」と怒鳴りながら校長室へ向かうところだった。
哲夫はその様子を黙ってみていた。

今は止めても仕方ないと思った。
2組のやつらに続いて哲夫も校長室に入った。
月尾校長は椅子から立ち上がっていて、両手で「まあまあ落ち着いて・・・」と言いながら上半身は後ろに引けていた。
白ぶち眼鏡の奥は恐怖感に満ちていた。
リーダーの松島の言い分はこうだ。
俺だって3か月前に喫煙を見つかったことがあるのに、停学にならなかった。なんで今回は停学にするんだというものだった。

校長の言い分は
「君の喫煙のことは生徒指導の先生からも担任の先生からも聞いていない。だから今回の処分は君とは関係ない」というものだった。 



実は哲夫自身もつい先日タバコを吸っているところを教師に見つかっていた。
そのときその教師はちょっと驚いた顔をしたが
「火事に気をつけろよ」
と言っただけで立ち去ったのだった。
タバコが見つかった哲夫たちはその後学校の様子をうかがっていたがなんのお咎めもなかった。


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哲夫の通うY高は普通科と農林科と家政科があった。
普通科は1クラスで、農林科と家政科が混合で2クラスあった。
農林科と家政科は普通科に入れなかった生徒の受け皿という態をなしていて、実際は農業や林業をやろうという者は皆無に等しかった。
1年生の時は普通科と変わらない授業を受けるが、2年になると授業内容が変わった。
つまり農業や畜産や林業などの専門性の高い授業に変わるのだ。
農業実習になると全員作業衣を着て授業を受ける。
彼らにとってその灰色の作業衣はまるで刑務所の作業衣に思えた。
足元は地下足袋である。
3年生になると授業は3分の2がそういう授業になって行った。
将来自分がやる気のない授業を受けるので当然誰も勉強に身が入らなかった。
農林科の教師たちも、そのへんはわきまえていて、試験の内容も採点も甘くしてくれた。
なんとか卒業してくれよという態度だった。
そんな中、大学進学を希望している生徒は、独学でなんとか頑張るしかなかった。
普通科の生徒とは計り知れないハンデだからだ。

街の人は普通科の生徒はエリートで、農林科や家政科に入った生徒は劣等生とみていた。
口の悪い人は脳足りん科とからかう人もいた。




3年になるとタバコを吸う男子生徒が大多数だっだ。
先輩後輩の区別が厳しい校風だった。だから2年生までは大人しくしていなければならなかった。
制服も男子は詰襟に中に白いワイシャツと決められていたが、それを守るのは2年生までで、3年になるとかなり自由になった。
白いワイシャツの代わりに中にはTシャツを着てくる者が多かった。
ズボンも太い裾にしたり、極端に細くして履いたりしてその年代のこだわりがあった。
学校側もそれを黙認していて服装には寛容だった。

さて、校長室まで乗り込んだ2組の生徒の停学騒動は、結局押し問答で終わった。
しかし、学校側がとった対応は哲夫たちにとってまったく予想外のものだった。





ーつづくー
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by 2006taicho | 2013-12-25 02:32 | 小説 | Comments(0)

おかしいことはおかしいと言う