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隊長ブログ

ひとり日和

哲夫の恋 3

担任の重田は「家で自習だからな」と言ったけど普段家でやっていないことをやれるわけはない。
それよりクラスのみんなに押しつけられた役目のほうで頭が一杯だった。
休校になって三日目、明日は登校日で三者集会だ。クラスを代表して意見を言えったってなにを言えばいいんだ。哲夫は一人悶々としていた。
「哲夫~電話だよ~沖山さんっていう人」
日曜日の朝、電話が来た。沖山さんからだ。そうだ、沖山さんに聞いてみよう。
「哲夫、お前トイレの紙がなくっってたらちゃんと補充しておいってって言ってるでしょ!まったくなんの役にもたたないんだから」
母の千賀子が小言を言う。
「わかったよ、やっておくよ」

電話に出ると「もしもし 哲夫か?沖山だけどさあ なに高校休みになったんだって?」
「はい実はそうなんですよ あっそれで沖山さん今日時間ありませんか?実はそのことで・・・・」
哲夫が言い淀んでいると沖山は
「おう 実は俺もそのことでちょっと聞きたいことがあってさそれで電話したんだよ」

渡りに船とはこのことだ。沖山さんは哲夫の1年先輩だった。去年の学園祭のときに同じ実行委員になっていて沖山さんは実行委員長だった。
準備の段取りなど、要領のえない哲夫たちの面倒をみてくれていろいろと細かく指示を出してくれた。四角い将棋の駒のような顔立ちに細くやさしい目で接してくれた。
他の上級生のように威張るところがなく、哲夫はちょっとあこがれの念を抱いていた。

「ちょっと出かけてくる」「哲夫 お母さんも明日は高校の集会行くからね」
母の千賀子は繕いものをしながらそう言った。



沖山さんが指定してくれた喫茶店は自転車で10分ほどのところにあった。Y駅の反対側にある不動産屋の隣だった。
店内には映画音楽が流れていた。お客はカウンターに常連風の男が一人、スポーツ新聞を読みふけっていた。
「お前 なに飲む?俺はブレンド」
「あっ俺はコーヒーで」
「わかりましたブレンド二つですね」ウイトレスはそう言って戻って行った。
そうかブレンドって言えばいいんだ、哲夫は秘かに、今度静江とデートするときは使おうと思った。
「それでどうなんだよ実際 地方版にも出てたぞY高校暴力事件で休校って」
「あっはい暴力事件じゃなんですけどほんとうは、タバコがみつかっちゃってそれで停学に・・・」
哲夫は事件の顛末をなるべく正確に話した。沖山さんの言うとおり今回の事件は新聞の地方版にも小さく掲載されていた。特にこれといった事件のない
地方の新聞記者にとっては有難いものだったのだろう。
「生徒会は?どうしてる?」
そうか、そういえば生徒会というものがあった。哲夫は自分の思考の狭さを思った。
「生徒会ですか?生徒会のほうは全然眼中にありませんでした」正直に答えた。
「まあ生徒会は今は誰だっけ?」
「白井です」
「あっそうかあいつかあ 彼はずっと生徒会の委員だったよな」
「はい1年のときからなんかの委員やってます」
「生徒会のほうからはなんの連絡もないのか?」
「ないです」「そうかあ それもおかしいいなあ」
「・・・・・」
「だって明日は三者集会があるんだろう?」
「はい」
「だったら明日のことで段取りとか打ち合わせておくことがあると思うけどなあ」
「・・はい」
「やっぱりメンバーがみんな普通科だからなあ」
ちなみにこの沖山さんも普通科卒業である。だからこうして哲夫たちのことを心配して相談に乗ってくれるなんて普通はあり得ないことだった。それだけでもこの人は違うと哲夫は思った。

哲夫の恋 3_d0098363_10584234.jpg



「俺はさあ 確かに俺は普通科だったけどさあ ちょっと気になっていたんだよ ていうかさあ 俺の中学のときの同級生もさあ 農林科に行ったやつもいれば普通科に入ったやつもいる ところがさ農林科に行ったやつとは高校に入ってからは妙に疎遠になっちゃうんだよ なんか 避けられちゃうというか そういう得変な距離みたいなものができる 中学時代あんだけ一緒に遊んだやつラがだよ それって多分普通科と・・・・・」
沖山さんはときどきコーヒーをすすりながら熱弁をふるった。

沖山さんの話し方が好きだった。
ひとつひとつ言葉を選びながら、それでいてテンポもあり、言い訳がましくなく、相手を思いやって話していることが伝わってくる。
自分みたいに乱暴で押しつけがましくて、相手を傷つけるような話し方ではダメだ。
こういうふうに話せるようになりたい。
温かい話し方・・・・・・




「まあとにかく 明日しゃべる機会があるならお前が思っていることを素直にしゃべればいいと思うよ。
お前はまっすぐだから、それがお前のいいところだから、それをそのまま学校にぶつければいいんだよ」

哲夫はありがたいと思いながら話を聞いていた。
こんな兄貴がいたらいいなあと思った。



<つづく>
by 2006taicho | 2013-12-26 10:59 | ひとり日和 | Comments(0)

おかしいことはおかしいと言う


by rei7955