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隊長ブログ

ひとり日和

哲夫の恋 2

騒動の翌日、スクールバスに乗り遅れた哲夫が学校に行くと、ホールルームが行われていた。哲夫は今日も遅刻である。
原因は深夜放送の聞きすぎと、猫のフーニャが哲夫の布団の上でなかなかどかないからだった。
みんなに言うと猫がどかないから遅刻なんて信じられない、馬鹿じゃないのと言われた。
しかしそれは本当だった。
朝目覚めると必ずフーニャが上に乗っかっている、それをむげにどかすことができない。それをいいことにもうひと眠りするともう時間がない、それでフーニャに声をかけながらベッドから起きると、もうスクールバスに間に合わない。
健康診断のとき、「朝起きれないので多分低血圧だと思うんですけど」と告げると、血圧を測っていた医師は「血圧は高いくらいですよ、起きれないのは意志の問題です」と言われてみんなに大笑いされたことがあった。


副級長の岡本節子が顔を赤らめてみんなの意見をまとめていた。
哲夫が教室に入ると、岡本節子は「やっと来た」という顔をしてほっとしたような、しょうがないやつという顔を哲夫に向けた。
担任の重田もちらっと哲夫の方を向いたが、いつもとは違う様子で無言で窓の外に顔を向けた。
哲夫は自分の席になにも入っていない鞄を置くと、その足で節子と入れ替わりに黒板の前に立った。
「えーーまあそういう訳で・・・・」
いつもなら級長の哲夫がそういうと「なにがそういう訳だよ、今頃来やがって」と突っ込みが入って笑いが起こるのだが、どうも今朝はみんなの様子が違うことに気がつく。
そういえば担任の重田の表情もなにかいつもより重い。

哲夫は念のため黒板を振り向いた。「休校について (三日間)」と書かれている。そしてそのタイトルの横には三日間の過ごし方とある。
みんなは哲夫を凝視している。哲夫がどんな反応を示すか注視している。反応を楽しみにしているようなフシも見て取れる。
数秒経ってから哲夫が「休校・・・なの?」と言うとようやくみんながどっと笑った。
「そうだよばかやろう」と親友の梅田孝之がやり返す。またみんなが笑う。
「そういう訳だから」と哲夫の常套句をそのまま誰かが言い放ってまだクラス中が笑った。
さすがの哲夫も恥ずかしくなり、しばし天井の蛍光灯を見上げた。

気持ちを取り戻して「いつから?」と哲夫が言うと「今日から」とみんなが叫ぶ。哲夫は少しずつことの次第がわかって来た。
「大変じゃん」心の中で思いながら話を続ける。休校の原因は昨日の騒動のせいだろう、しかし何故休校なんだ、それも三日間も。
ここはまず男子じゃなく女子に聞いたほうがよさそうだ。哲夫の頭もようやく目を覚まして来たようだ。そういえば今日はまだ目覚めの一服もしていなかったことに気付く。
小林みねこに聞いてみる。彼女はクラスの中でも妙に大人っぽいところがある。そのせいか女子の中ではちょっと浮いていて友達も少ない。
でもこういうときはあまりしがらみのない小林に限る。
「あたしは昨日のことはあまり詳しくないから、よくわかんない」小林みねこは迷惑そうな表情を隠そうともせず、女子としてはもっともな意見だ。
「そうだよ 男子のやったことなんだから」女子たちのささやくようなそれでいてはっきりと聞こえる声があちこちで起こる。

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「まあやったのは2組のやつらだからなあ」 「でもあいつらのせいだけにするのもなあ」
「普通科のやつらは迷惑だと思ってるだろうな」 「うん あいつらは関係ないって思ってるよ」
「今年は暴力事件ないよな」「停学は今年初めて」 「あいつも馬鹿なところでタバコ吸ってんだからしょうがないよ」
「ほんと馬鹿だよな、あそこじゃ見つかるに決まってるよ」
「俺らの代はまだ退学は出てないよな」 「だからいつもの3年よりまだいいほうだよ」
「タバコが見つかれば停学はしょうがない」
「まあそれはそうだけどな」「停学って内申(書)に載るの?」 「しらない どうなんだろう」
「でもこんなの毎年のことだろう?」「そりゃそうだよ 農林科だもん そりゃ少しは大目にみてくれないとな」
「やってらんないからな」
「普通科のやつらはいいよなあ」 「まあ今ごろそれを言ってもな」 「うん」


しばらくみんなの意見を聞いていた。哲夫は大体意見は出たと思った。そして今回の騒動の原因も自分なりに考えていた。
すると担任の重田が立ち上がり
「昨日のことで先生たちの中には学校に来るのが怖いという先生もいる、授業をやるのが怖いという先生もいる、みんなもこの三日間でよく反省してもらいたい、三日間の休校のあとは三者集会をやることになった」
と少し面倒くさそうな顔でみんなに伝えた。
教師、生徒、父兄というわけだ。
「その三者集会でみんなの考えていることを意見として言うのもいいと思う」重田はそれを言いたかったかのようだった。
「ええ でも親も来るんだろう いやだよ俺」
「そうだよな俺もいやだ」
「哲夫 お前がなんか言え」
「そうだお前がいい」
「なんか言え」


結局、哲夫が三者集会でなにか意見を言うことになった。3年3組を代表して。
哲夫は最初は拒否したがみんなの声に押し切られた。
重田も承知したのでホームルームはそれで終了した。
帰ってゆく生徒たちに重田は
「おい 休校だからって街で遊んでんじゃないぞう ちゃんと家で自習だからなあ」



ーつづくー
by 2006taicho | 2013-12-25 05:51 | ひとり日和 | Comments(0)

おかしいことはおかしいと言う


by rei7955